### ### 小倉山庄色紙和歌 (小倉百人一首) ### 後水尾院宸筆本 ### 宮内庁書陵部蔵「四〇五・一〇五」本 ### 1 天智天皇 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ 1 てんじてんのう あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ # 2 持統天皇 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ あまのかぐ山 2 じとうてんのう はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすてふ あまのかぐやま # 3 柿本人麻呂 あし曳の 山どりの尾の しだりをの ながながし夜を 独りかもねむ 3 かきのもとのひとまろ あしびきの やまどりのおの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ # 4 山部赤人 田子のうらに うち出でてみれば 白妙の ふじの高ねに 雪はふりつつ 4 やまべのあかひと たごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ # 5 猿丸大夫 おく山に 紅葉ふみ分け なく鹿の こゑ聞くときぞ 秋はかなしき 5 さるまるだゆう おくやまに もみじふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき # 6 中納言家持 鵲の わたせる橋に おくしもの しろきをみれば 夜ぞ更けにける 6 ちゅうなごんやかもち かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける # 7 安倍仲麿 天の原 ふりさけみれば かすがなる 三笠の山に 出でし月かも 7 あべのなかまろ あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも # 8 喜撰法師 我庵は 都のたつみ しかぞすむ 世を宇治山と 人はいふなり 8 きせんほうし わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり # 9 小野小町 花の色は うつりにけりな いたづらに 我身世にふる ながめせしまに 9 おののこまち はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに # 10 蝉丸 これや此 ゆくも帰るも 別れては しるもしらぬも あふ坂の関 10 せみまる これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき # 11 参議篁 わたの原 八十島かけて 漕出でぬと 人にはつげよ あまの釣舟 11 さんぎたかむら わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね # 12 僧正遍昭 天つかぜ 雲の通路 吹きとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ 12 そうじょうへんじょう あまつかぜ くものかよひじ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ # 13 陽成院 つくばねの 嶺よりおつる みなの川 こひぞつもりて 淵となりける 13 ようぜいいん つくばねの みねよりおつる みなのがわ こひぞつもりて ふちとなりぬる #*註* 後水尾院宸筆本、後選集:「淵となりける」 流布:「淵となりぬる」 # 14 河原左大臣 みちのくの 忍ぶもぢずり たれゆゑに 乱れ初めにし 我ならなくに 14 かわらのさだいじん みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに # 15 光孝天皇 君がため 春ののに出でて わかなつむ 我衣手に 雪はふりつつ 15 こうこうてんのう きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ # 16 中納言行平 立ち別れ いなばの山の みねに生ふる 松としきかば 今帰り来む 16 ちゅうなごんゆきひら たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ # 17 在原業平朝臣 千早振 神代もきかず たつた川 から紅に 水くくるとは 17 ありわらのなりひらあそん ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは # 18 藤原敏行朝臣 住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通路 人めよくらん 18 ふじわらのとしゆきあそん すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひじ ひとめよくらん # 19 伊勢 難波がた みじかきあしの ふしの間も あはで此世を すぐしてよとや 19 いせ なにわがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや # 20 元良親王 侘びぬれば 今はたおなじ なにはなる 身をつくしても あはむとぞ思ふ 20 もとよししんのう わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みををつくしても あわむとぞおもふ # 21 素性法師 今こむと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待出でつるかな 21 そせいほうし いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな # 22 文屋康秀 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山かぜを あらしといふらん 22 ふんやのやすひで ふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらん # 23 大江千里 月みれば 千千に物こそ かなしけれ 我身ひとつの 秋にはあらねど 23 おおえのちさと つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど # 24 管家 この度は ぬさもとりあへず 手向山 紅葉のにしき 神のまにまに 24 かんけ このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに # 25 三条右大臣 名にしおはば 相坂山の さねかづら 人にしられで くるよしもがな 25 さんじょうのうだいじん なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな # 26 貞信公 をぐらやま みねのもみじ葉 心あらば 今一度の みゆきまたなむ 26 ていしんこう をぐらやま みねのもみじば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ # 27 中納言兼輔 みかの原 わきてながるる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ 27 ちゅうなごんかねすけ みかのはら わきてながるる いずみかわ いつききとてか こひしかるらむ # 28 源宗于朝臣 山ざとは 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬとおもへば 28 みなもとのむねゆきあそん やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば # 29 凡河内躬恒 心あてに をらばやをらむ はつしもの 置きまどはせる しらぎくの花 29 おおしこうちのみつね こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな # 30 壬生忠岑 有明の つれなく見えし 別より 暁ばかり うき物はなし 30 みぶのただみね ありあけの つれなくみえし わかれれより あかつきばかり うきものはなし # 31 坂上是則 朝ぼらけ ありあけの月と 見るまでに 芳野のさとに ふれる白雪 31 さかのうえのこれのり あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき # 32 春道列樹 山河に かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ 紅葉なりけり 32 はるみちのつらき やまがはに ゆきのかたける しがらみは ながれもあへぬ もみじなりけり # 33 紀友則 久堅の 光のどけき 春の日に しづこころなく 花のちるらん 33 きのとものり ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづこころなく はなのちるらん # 34 藤原興風 たれをかも しる人にせむ 高砂の 松もむかしの 友ならなくに 34 ふじわらのおきかぜ たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに # 35 紀貫之 人はいさ 心もしらず ふるさとは 花ぞむかしの かににほひける 35 きのつらゆき ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける # 36 清原深養父 夏の夜は まだよひながら 明けぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ 36 ひよはらのふかやぶ なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ #*註* 流布:「雲のいずくに」 # 37 文屋朝康 しら露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞちりける 37 ふんやのあさやす しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける # 38 右近 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人のいのちの おしくもあるかな 38 うこん わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの おしくもあるかな # 39 参議等 あさぢふの をののしの原 忍ぶれど あまりてなどか 人のこひしき 39 さんぎひとし あさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき # 40 平兼盛 忍ぶれど 色にいでにけり 我恋は 物やおもふと 人のとふまで 40 たいらのかねもり しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで # 41 壬生忠見 恋すてふ 我名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか 41 みぶのただみ こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか # 42 清原元輔 契りきな かたみに袖を しぼりつつ すゑの松山 波こさじとは 42 きよはらのもとすけ ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは # 43 権中納言敦忠 逢見ての のちのこころに くらぶれば むかしは物を おもはざりけり 43 ごんちゅうなごんあつただ あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり # 44 中納言朝忠 あふ事の たえてしなくは 中中に 人をも身をも うらみざらまし 44 ちゅうなごんあさただ あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし # 45 謙徳公 あはれとも いふべき人は おもほえで 身のいたづらに 成りぬべきかな 45 けんとくこう あはれとも いふべきひとは おもほえで みのいたづらに なりぬべきかな # 46 曽禰好忠 由良の渡を わたる舟人 かぢをたえ 行くへもしらぬ こひのみちかな 46 そねのよしただ ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな # 47 恵慶法師 八重葎 しげれるやどの さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり 47 えぎょうほうし やえむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり # 48 源重之 かぜをいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな 48 みなもとのしげゆき かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな # 49 大中臣能宣朝臣 御垣守 衛士のたく火の よるはもえ ひるはきえつつ 物をこそ思へ 49 おおなかとみのよしのぶあそん みかきもり えじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ # 50 藤原義孝 君がため おしからざりし 命さへ ながくもがなと おもひけるかな 50 ふじわらのよしたか きみがため おしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな # 51 藤原実方朝臣 かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを 51 ふじわらのさねかたあそん かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを # 52 藤原道信朝臣 明けぬれば くるるものとは しりながら 猶うらめしき 朝ぼらけかな 52 ふじわらのみちのぶあそん あけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな # 53 右大将道綱母 歎きつつ 独ぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる 53 うだいしょうみちつなのはは なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる # 54 儀同三司母 忘れじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの 命ともがな 54 ぎどうさんしのはは わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな # 55 大納言公任 滝のおとは 絶えて久しく 成りぬれど 名こそながれて 猶きこえけれ 55 だいなごんきんとう たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ # 56 和泉式部 あらざらむ 此世のほかの おもひ出に 今一たびの あふ事もがな 56 いずみしきぶ あらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな # 57 紫式部 めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな 57 むらさきしきぶ めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな # 58 大弐三位 有間山 ゐなのささ原 風ふけば いでそよ人を わすれやはする 58 だいにのさんみ ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする # 59 赤染衛門 やすらはで ねなましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月をみしかな 59 あかぞめえもん やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな # 60 小式部内侍 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立 60 こしきぶのないし おおえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて # 61 伊勢大輔 いにしへの 奈良のみやこの 八重ざくら けふ九重に 匂ひぬるかな 61 いせのたいふ いにしへの ならのみやこの やえざくら けふここのへに にほひぬるかな # 62 清少納言 夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも 世にあふさかの せきはゆるさじ 62 せいしょうなごん よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ # 63 左京大夫道雅 いまはただ 思ひたえなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな 63 さきょうのだいふみちまさ いまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな # 64 権中納言定頼 朝朗 うぢの川霧 たえだえに あらはれわたる せぜの網代木 64 ごんちゅうなごんさだより あさぼらけ うじのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ # 65 相模 恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋にくちなむ 名こそをしけれ 65 さがみ うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ # 66 前大僧正行尊 もろともに あはれとおもへ 山ざくら 花より外に しる人もなし 66 ぜんだいそうじょうぎょうそん もろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし # 67 周防内侍 春の夜の ゆめばかりなる 手枕に かひなくたたむ 名こそおしけれ 67 すおうのないし はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそおしけれ # 68 三条院 心にも あらでうき世に ながらへば こひしかるべき 夜半の月かな 68 さんじょういん こころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな # 69 能因法師 あらし吹く 三室の山の もみぢ葉は 龍田の川の にしきなりけり 69 のういんほうし あらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり # 70 良暹法師 さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづくもおなじ 秋のゆふ暮 70 りょうぜんほうし さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづくもおなじ あきのゆふぐれ # 71 大納言経信 夕されば 門田の稲葉 おとづれて あしの丸屋に 秋かぜぞふく 71 だいなごんつねのぶ ゆうされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく # 72 祐子内親王家紀伊 音にきく 高師のはまの あだなみは かけじや袖の ぬれもこそすれ 72 ゆうしないしんのうけのき おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ # 73 権中納言匡房 高砂の 尾上のさくら 咲きにけり 外山のかすみ たたずもあらなん 73 ごんちゅうなごんまさふさ たかさごの おのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなん # 74 源俊頼朝臣 うかりける 人をはつせの 山おろしよ はげしかれとは いのらぬものを 74 みなもとのとしよりあそん うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを # 75 藤原基俊 契りおきし させもが露を 命にて あはれことしの 秋もいぬめり 75 ふじわらのもととし ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり # 76 法性寺入道前関白太政大臣 わたの原 こぎ出でて見れば ひさかたの 雲井にまがふ 奥つしらなみ 76 ほうしょうじのにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ # 77 崇徳院 瀬をはやみ 岩にせかるる たき河の われてもすゑに あはむとぞ思ふ 77 すとくいん せをはやみ いわにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ # 78 源兼昌 淡路島 かよふ千鳥の なくこゑに いく夜めざめぬ すまの関もり 78 みなもとのかねまさ あはぢしま かよふちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり # 79 左京大夫顕輔 秋かぜに たなびく雲の たえまより もれいづる月の かげのさやけさ 79 さきょうのだいぶあきすけ あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ # 80 待賢門院堀川 ながからむ 心もしらず くろかみの みだれてけさは 物をこそ思へ 80 たいけんもんいんのほりかわ ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ # 81 後徳大寺左大臣 ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞのこれる 81 ごとくだいじのさだいじん ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる # 82 道因法師 思ひ侘び さてもいのちは あるものを うきにたへぬは 涙なりけり 82 どういんほうし おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり # 83 皇太后宮大夫俊成 世中よ 道こそなけれ おもひいる 山のおくにも 鹿ぞなくなる 83 こうたいごうぐうのだいぶしゅんぜい よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる # 84 藤原清輔朝臣 ながらへば 又この比や しのばれむ うしとみし世ぞ 今はこひしき 84 ふじわらのきよすけあそん ながらへば またこのころや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき # 85 俊恵法師 夜もすがら 物思ふ頃は 明けやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり 85 ゆんえほうし よもすがら ものおもふころは あけやらぬ ねやのひまさへ つれなかりけり # 86 西行法師 なげけとて 月やは物を おもはする かこちがほなる 我なみだかな 86 さいぎょうほうし なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな # 87 寂蓮法師 むらさめの 露もまだひぬ 槙の葉に 霧たちのぼる 秋のゆふぐれ 87 じゃくれんほうし むらさめの きりもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ # 88 皇嘉門院別当 難波江の あしのかりねの 一夜ゆゑ 身をつくしてや 恋わたるべき 88 こうかもんいんべっとう なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき # 89 式子内親王 玉の緒よ 絶えなばたえね ながらへば 忍ぶることの よはりもぞする 89 しきしないしんのう たまのおよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よはりもぞする # 90 殷富門院大輔 見せばやな を島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず 90 いんぷもんいんのたいふ みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず # 91 後京極摂政前太政大臣 きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかもねむ 91 ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ # 92 二条院讃岐 我袖は しほひに見えぬ おきの石の 人こそしらね かわく間もなし 92 にじょういんのさぬき わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし # 93 鎌倉右大臣 世中は 常にもがもな なぎさこぐ あまの小舟の 綱手かなしも 93 かまくらのうだいじん よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのこぶねの つなでかなしも # 94 参議雅経 みよし野の 山のあきかぜ さ夜更けて 故郷さむく ころもうつなり 94 さんぎまさつね みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり # 95 前大僧正慈円 おほけなく うき世のたみに おほふかな 我たつそまに 墨染の袖 95 さきのだいそうじょうじえん おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで # 96 入道前大政大臣 花さそふ あらしの庭の ゆきならで ふりゆくものは 我身なりけり 96 にゅうどうさきのだいじょうだいじん はなさそふ あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり # 97 権中納言定家 こぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに やくやもしほの 身もこがれつつ 97 ごんちゅうなごんていか こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしほの みもこがれつつ # 98 従二位家隆 風そよぐ ならのをがは 夕暮は みそぎぞ夏の しるしなりける 98 じゅうにいいえたか かぜそよぐ ならのをがはの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける # 99 後鳥羽院 人もをし 人もうらめし あぢきなく 世をおもふゆゑに 物思ふ身は 99 ごとばいん ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは # 100 順徳院 百敷や ふるき軒端の 忍ぶにも 猶あまりある むかしなりけり 100 じゅんとくいん ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり ### 終 #--- #修正履歴 # 17 Sep 1998: 53 「独ぬる夜の」==>「独ゐる夜の」 # 17 Sep 1998: 34 「しるる人にせむ」 ==> 「しる人にせむ」 # 21 Sep 1998: 53 「独ゐる夜の」==>「独ぬる夜の」 # 13 Nov 1998: 40 「人のとふふまで」==>「人のとふまで」 #---